チェルノブイリ事故から20年目の評価|主に発癌に関して

先日抄読会用に調べたのでせっかくだからブログに掲載
最近なにかと注目をあびている放射線被曝についてです。
一度どの程度の線量の被曝があって、実際にどれくらい健康被害がでたのか自分で調べておきたかった。
「 Cancer consequences of the Chernobyl accident: 20 years on 」
Journal of Radiological Protection Volume 26 Number 2
Elisabeth Cardis et al 2006 J. Radiol. Prot. 26 127 doi:10.1088/0952-4746/26/2/001
概要
 2006年4月26日チェルノブイリ事故から20周年を迎えた。この機会にUN(国連)チェルノブイリフォーラムにてWHOがチェルノブイリ事故の健康への影響を評価する専門家グループを集めた。この論文はチェルノブイリ事故の癌に関する知見集めたものである。もっとも汚染された地域では、放射能ヨードに暴露した子供の甲状腺癌が劇的に増加した。この地域はヨード欠乏地域であり、このことが甲状腺がんの発生リスクを増加させた。また数年にわたってヨード補給した場合は発癌リスクの減少を認めた。甲状腺以外の癌の増加について報告されているものもあるが、その多くは、登録・報告・診断といった制度面の改善といった他の要素の影響による増加が考えられる。さらに固形癌の大半は暴露から数十年後に発生するが、事故から20年しか経過していない時点で、事故の影響を完全に評価するのは時期早尚といえよう。若年者の甲状腺癌増加を別にすると、現在事故による放射線に関連する癌リスクの増加ははっきりと示されていない。しかし、これは実際に増加していないと解釈すべきではない。電離放射線に暴露された他の経験に基づいて考えると、たとえ低線量から中等度の線量の暴露であっても、発がんの相対リスクのわずかに上昇があると考えられる。疫学研究がそのようなリスクを同定するのは困難と思われるが、もし暴露した人の数が非常に多くなれば、将来的にかなりの数の放射線に関連する発癌になるかもしれない。
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テーブル1 有効線量の平均値の人口グループ毎の見積もり
放射線に暴露した人を3つのグループに分類している。
1.清掃人:チェルノブイリサイトで緊急対応や復旧活動をした人々。最も高い線量を浴びたブループ。1986-1987年で24万人。暴露の平均値は100mSv。
2.汚染地域から疎開したり、引越しした住人達。1986年の事故から数ヶ月で11600人がベラルーシ、ロシアやウクライナから汚染の無い地域へ移住した。この人達の被曝した平均線量は33mSv。
3.汚染地域にそのまま残った人々。約500万人が汚染のあったベラルーシ、ウクライナ、ロシア地域に住み続けた。このグループはさらに2つに分けれれて、汚染の大きかった地域と汚染の少なかった地域の住人にわけられる。それぞれ事故から2005年までに蓄積された有効線量はそれぞれ50mSvと10mSv。
テーブル2 清掃に関わった労働者の暴露した線量
地域毎の放射線量を時間経過で示した表です。最初の事故から数日で原子力発電所の施設内で働いていた人々は数Sv以上の高線量をあびた人もいるといわれている。時間と共に、放射性核物質の崩壊と除染作業がすすんで、線量は著名に減少していき、1986年3月末から被ばく線量の制限が行われる。現地で作業する人は250mSvを許容線量と決められ、その許容線量を下回るようになる。ちなみに翌年の1987年には許容線量は50~100mSvに下げられました。
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テーブル3 甲状腺線量の評価
甲状腺は主に131Iによって汚染されたミルク摂取による内部被曝による影響が大きい。この表は事故後数週間のベラルーシ、ウクライナ、ロシアの住人35万人の甲状腺被曝量を調べたもの。地域や、年齢、ミルク摂取量によって被曝量に大きく幅がありますが、平均すると数十ミリGy~数Gy程度と高い値を示す。
また、表のPripyat townという街では事故から6~30hの間にヨードの錠剤を内服したところ、甲状腺の線量を6~7倍減少することができた。
ちなみに、
Gy: 吸収線量の単位
Sv: 吸収当量の単位
であり
Sv = 修正係数 × Gy
となります。
例えば、等価線量を算出する際には、修正係数として放射線荷重係数が使用されます。放射線荷重係数は、放射線の種類によって値が異なり、X線、ガンマ線、ベータ線は 1、 陽子線は 5、 アルファ線は 20、 中性子線はエネルギーにより 5 から 20 までの値をとる。通常の被曝はX線、線が主ですのでGy=Svと考えると参考にしやすいと思います。
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Figure1 甲状腺癌の年間発生件数
チェルノブイリ事故の放射線の一番の健康被害というと若年者の甲状腺癌が劇的に増加したことです。この増加は1990年にベラルーシで最初に観測され、以後ウクライナ、ロシアで観察が続けられている。
Figure1が0-14歳までの子供と、15-18歳の思春期、19-34の成人のベラルーシでの甲状腺がんの発生を年度ごとに示した図です。事故の前は10万人あたり0.03-0.05件の発生だったのに対して、1995年の14歳以下の子供は10万人あたり4件まで増加しています。また事故当時子供だった子たちが2002年には成人になり、その頃には子供の甲状腺がんの発生率はほとんど0に減少しています。それに対して、徐々に思春期の子供たちの甲状腺がんの発生が上昇し2001年に11.3人とピークを迎えている。少し遅れて成人の甲状腺ががほぼ平行して上昇している。つまり被曝当時小さかった子供が、数年後に甲状腺癌になった可能性を示しています。
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テーブル4 甲状腺癌の累積発生件数( 1986-2002)
年齢毎の累積の甲状腺癌の発生を表にしたのが、テーブル4である。1986-2002までに甲状腺がんと診断された、ベラルーシとウクライナとロシアの最も汚染の強かった4地域のデータです。事故当時、15歳以下の子供でその後2002年までに甲状腺癌と診断されたのは合計3822人います。3つの国で当時の15歳以下の子供の数の合計は1440万人いたと言われており、これは10万人あたり約26人と高い値になっている。またこのうち15人が今までに亡くなったことがわかっている。
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テーブル5 甲状腺癌のコホート比較対象研究
いくつかの研究がまとめてあるが、1Gyあたりの単位線量につきどのくらい甲状腺がん発がんリスクが過剰に上昇したのか示す、過剰相対リスクERRsの値をみると、どの研究もおおよそ5前後となっている。長期間にわたる定量的な評価はまだできないため、今後被曝による甲状腺がんは増え続けると考えられる。
上記のように子供や思春期の子供の甲状腺がんの発生リスクははっきりしているが、大人の事故放射線による甲状腺癌増加をはっきり示す研究は無く、逆に容量依存的な関係は無いことを示す研究がいくつか報告されている。
白血病
白血病は一般的に電離放射線の被曝で増加することが確認されている。たとえば原爆の被害者や、放射線治療を受けた人や、職業上で被曝した人々で白血病の発生と死亡が増加すると確認されており、放射線リスクのマーカーと考えられている。チェルノブイリの被曝の影響に関しては、1996年ギリシャで行われた研究では子宮内で被曝した胎児で白血病リスクが増加したという報告があったが、これと同様の研究をした、ドイツやベラルーシ、ウクライナの調査では、同じ結果は確認されなかった。 また子宮内被曝ではなく子供のチェルノブイリの被曝と白血病に関する研究はEuropean Childhood Leukaemia-Lymphoma Stdyという大規模な調査が行われたが、放射線に関連する白血病の増加を示すエビデンスは見つからなかったということです。その他の国際的ないくつかの研究でも、同様に小児白血病の増加を示す結果は出ていません。ただし、小児の白血病のようなただでさえレアな疾患の小さな増加を調べるのは方法論的に難しいと考えれられる。
成人の白血病リスクは、線量に対するリスクの評価というのはほとんど行われておらずはっきりしない。線量の評価が大変難しく不確かなので、今後のケースコントロール研究は正確な線量評価が期待されています。
その他の固形癌
電離放射線は多くの部位で癌のリスクを増加させることが知られているが、チェルノブイリ事故に関連する固形がんで甲状腺癌以外のデータは大変少なく、また著名な増加はみられていない。乳がんの罹患率で一部増加を認めた地域があったが、癌の診断や登録制度の改善による影響が大きいと考えられている。その他、各種癌の発生が報告され続けていますが、症例や比較対象が少ないことや、疫学的に線量の情報が十分正確に得られないこと、その他一般的なリスクファクターの情報がかけていることなど、色々な制限が大きく、科学的に判断することが難しいということです。
ディスカッション
チェルノブイリ事故の研究で子供の甲状腺癌のリスクの大きさが分かった。しかし、白血病やその他の固形癌についてはまだ明らかでない部分が大きい。白血病や固形がんについては、ベラルーシ、ロシア、ウクライナで発生率の上昇が報告されていますが、放射線以外の要因、例えば診断率の向上や、報告・登録制度の改善などの要因の影響が考えれており、よりよい分析による確認が必要になる。
また甲状腺癌以外の固形癌のリスク評価が難しいのは外部被曝の量が非常に少ないため、研究に統計学的意味が少なくなってしまうことや、固形癌の潜伏期間は白血病や甲状腺癌に比べると非常にながく、10年・15年とかもっと長い期間であると考えれ、チェルノブイリ事故の影響を評価するにはもっと長い年月が必要になるということです。
結論
チェルノブイリ事故から20年たった時点で癌で亡くなった人はまだ少数しかいない。しかし、現在はっきりした増加の証拠が無いというのは、今後も増加しないというのとは違う。原爆被害者や、医療用放射線の被曝などの経験に基づいて考えても、たとえ少量の被曝であっても相対的は発がんリスクはわずかに上昇している。リスクの小さな増加であっても、多くの人が被曝すれば将来的には、かなりの数の放射線関連発がんが増えることになります。来る日のために、健康に対する影響のさらなる研究が望まれます。


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